「産みの親から育ての親への橋渡し 赤ちゃん縁組の取り組み」
日 時:2019年3月24日(日)14時~16時半
場 所:スペースアルファ三宮(神戸市中央区)
参加者:40名(うち相談員13名)
講演者:萬家 育子 氏(NPO法人CAPNA理事長)
里親制度・養子縁組制度に関心のある一般の方の参加を交えて “こうのとりのゆりかご in 関西“ の電話相談員研修のための勉強会が開催された。
愛知県の社会福祉職員を経て愛知県刈谷市児童相談センター長、退職後は愛知教育大学特任教授、愛知県里親委託推進委員長として活動を続けておられる萬家氏の話はとても分かりやすく具体的であった。
「愛知方式」と呼ばれる赤ちゃん縁組のメリットは、子の利益のための制度である。
(要旨)
社会的養護の二つの方法として、施設養護と家庭養護がある。生まれてすぐに施設送りが良いのかとの思いから、生みの親が育てられない赤ちゃんを、特別養子縁組を前提とした里親委託によって、生まれた直後から家庭の中で育てる取り組みを30年来続けている。通常は、育てらずに置き去りにされた赤ちゃんがいた場合は、病院に送り様子を見て乳児院に行き、それから後に里親の元に。こうした場合、病院から里親に行く方が、赤ちゃんにとっても養親にとっても、愛情形成が容易にできるのではないか。
もちろん、養親候補の方には厳しい条件を「誓約書」として義務づけている。
・引き取り許可を受けたその日から、赤ちゃんを家庭に迎え入れる決断をしている事
・妊娠中の母親の保護に努めて妊婦さんが安心できるように努める事
・性別を選ばない、妊娠経過は一切不問の事
・障害の有無を問わない事
・真実告知をすること
等、合計9項目の条件がある。
家庭から離れて生活している子どもは
・社会的養護の対象児童 4万5千人(2017年12月)
・乳児院(0~2歳)138ヶ所2801人
・養護施設(2歳~18歳原則、22歳まで延長可能)615ヶ所26449人
・里親委託5190人
・ファミリーホーム313ヶ所1356人
・児童自立支援ホーム143ヶ所604人
児童自立支援施設、児童心理治療施設、母子生活支援施設などがあり施設療養に偏っていると
ずっと指摘されていた。
1976年愛知県産婦人科医会は「赤ちゃん縁組相談無料相談」を開始
その頃の児童相談所は妊娠中の相談には対応しなかった → 生まれてから来てください。
困る場合は乳児院に入れましょう。妊娠中からの相談に応じていたのは民間団体であった。1982年愛知県の児童福祉司 矢満田篤二氏が児童相談所で「赤ちゃん縁組」を開始。県内の児童相談所に徐々に広がりマニュアルも作られた。今も他府県ではほとんど取り組まれていない。赤ちゃんにとっても養親にとっても費用面で公費も使わずみんなにとって良い方法がなぜ広がらないのか不思議でならない。
愛知方式で出会った事例の紹介がなされ、児童虐待で死亡する子供の年齢は0歳0か月が最多であることから、妊娠中からの切れ目のない支援があれば0歳の死亡は減ると訴えられた。
また、子供の自殺が増え続けており、先進国の中で死亡理由1位が自殺なのは日本だけ。新生児遺棄置き去り事件では女性だけが責任を問われている。
さらに、役に立つ性教育も必要である。
特別養子縁組・赤ちゃん縁組は、予期しない妊娠出産で苦悩する女性の救済策となる。子供に恵まれない夫婦が子どもを迎えて家庭を作ることができる。早期の愛着関係の創造が容易になる。養育困難、虐待の世代関連鎖の予防。児童相談所、関係機関の職員にとっての仕事の意義・希望につながる。全国に広がってほしいとして締めくくられた。
講演の最後に、特別養子縁組で養親の下で暮らし、今は尼崎市職員として働いておられる近藤愛さんが自身の体験を語られた。
乳児院の前に置き去りにされ、半年後に近藤家に縁組。4人の兄姉に囲まれて育った愛さんが真実告知を受けた時の思いや経験を、質疑応答を交えて話され「産んでくれた親も、育ててくれた親も、どちらも実の親」と感謝できるようになり、今では乳児院の前においてくれたのは「生きていてほしい」とのメッセージと考えている。
講演終了後に、自由な質疑応答の時間が設けられて、萬屋氏、近藤氏を、参加者や相談員が取り囲んで児童養護の必要性や制度についての考えをさらに突っ込んで話し合うことができた。一人でも多くの赤ちゃんを救いたいとの思いを強くした貴重な時間であった。
(報告者 目瀬 真理子)